生活者ニーズを抽出する段階では、ユーザーの生活行動や行為を詳細に観察・分析し、ユーザーのゴールを明らかにして「ユーザー要求仕様」を明確化します。しかし多くの商品開発プロジェクトでは、この段階を技術志向・製品指向のバイアスがかかったままで通過してしまう傾向が見られます。
特に既存の設備・機器や道具に不満や不具合を感じているユーザーに対するヒアリングでは、使用中の設備・機器や道具の改善・改良に関連した内容に話題が集中してしまいます。また、技術者や開発サイドのメンバーが、ユーザー観察のトレーニングを重ねずにいきなり使用の現場を観察する場合にも、同様の結果に陥りやすい傾向が見られます。工学分野や技術開発の専門家はその特定の専門性ゆえに、ユーザーのニーズに対する解を導くための最適な技術を取捨選択するというステップにおいて、自分の専門性を超えてより広い視野でアイデアや可能性を発想・拡散し、さらに収束・強化して最適解を導くプロセスを踏むことが難しい場合があります。
このような開発の姿勢や態度を「原因分析型のアプローチ、技術志向・製品指向のアプローチ」と呼びます。カイゼン活動など、既存の設備・機器や道具の改善・改良が目的である場合にはこうした手法が適している場面もあります。しかし商品開発活動では、潜在化しているユーザーの真のゴールを発見し、明確化出来るかどうかが重要なポイントになります。
顧客の欲求や要求が潜在化している状況では、アンケートやヒアリンからはユーザーの真のゴールを読み取ることは出来ません。答えはユーザーの生活の中にあるのは間違いないのですが、ユーザー自身がそれを言語化できないからです。そのため、ユーザーの生活活動の観察を通じて潜在しているユーザーのゴールを読み解いていく、ユーザー観察が重要な鍵となります。顧客がそのゴール(目的や目標)を達成できるような商品やサービスを完成して提供できれば、顧客は喜んでその購買力と交換してくれることでしょう。これを「ユーザー・ゴール志向型のアプローチ」と呼びます。(Text by 大藤 恭一)